わ》のきわにこれを汝に譲るぞ、この刀をば父と思って殿に忠勤を励めと、くれぐれも申し聞けられました景光にござります。(泣く。涙の眼で奎堂を白眼《にら》む)しかるにこれを指して、口にするだも恐しい、君のお命を縮めまいらす刀相などとは――。
奎堂 (冷然と)凶相じゃ、凶相じゃ。そこもとが何といおうと、凶相じゃ。必ず思いあたることがあろうぞ。
矢沢 (あわてて)久保氏! あなたもまた、何もそんな不吉なことをそう言い張らんでも――。
奎堂 私が言うのではない。刀が語っているのです。相に出ておるのです。それを偽ることはできませぬ。
郁之進 ええ! まださようなことを! (掴みかかろうとする)
播磨 ははははは、よいよい、郁之進。騒ぐでない。相対で話をしよう。これ、皆の者、遠慮せい。
矢沢 しかし、殿。ただいまの奎堂先生のお説もござりますれば、ただお一人にて郁之進めと御対坐遊ばす儀だけは、せつにお思い止まり下さりますよう。
播磨 何を下らぬことを! 郁之進ごときが十人掛かっても、後退《たじろ》ぐ余か。
矢沢 しかし、郁之進の刀は魔物と申すことですから、充分に御注意を。
播磨 みな退れ。加世、そちだけ
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