恐れながら、かねての殿のお命令《いいつけ》に従い、きやつの胸に探りを入れてみましたところ、まったく異心は無いものと見受けましてござります。
播磨 ふむ、そうかな。いやあたり前だ。異心などあってどうする。
森 身にあまる光栄だと申して、よろこんでおりまする。
播磨 うむ。そうあるべきところだ。ははははは、いや、しごく当然の話だ。(振り向いて)加世、聞いたか。これでそちのその小さな胸も、晴れたであろう。この上は、心置きなく余の寵愛を受けい、なあ。
吾孫子 (ひれ伏して)なにとぞ、末始終お眼をおかけ下されまして――。
お坊主 (次の間の敷居ぎわへ来て)申し上げます。皆様|彼室《あちら》でお待ちかねでいらっしゃいますが、お歌のほうは、もはや――。
播磨 歌はもうよしたぞ。重立った者だけ、こちらへ話しにでも来いと申せ。
池田 では、われわれは――。(と森へ眼まぜして、退《さが》ろうとする)
播磨 いや、苦しゅうない。そこにおれ。
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歌会の席から、家老矢沢某、ほか重役重臣ら二十人ばかりはいってくる。他藩の士も招かれて来ている。
中に、当時刀の観相家として知られた某藩の久保奎
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