堂《くぼけいどう》も混っている。奎堂は五十がらみ、茶筅髪の学者型である。一同が提げ刀のまま入り乱れて席を譲り合いながら、座につこうとする時、ひとりの侍の刀の鐺《こじり》が、他の一人の刀に触れて、かちっ[#「かちっ」に傍点]と音を立てる。
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その一人 おっと! これはこれは、とんだ粗相《そそう》を。なにとぞ御容赦のほどを――。
他の一人 いや、手前こそ、お邪魔になるところへ小長い刀《もの》を突き出しておって、不調法をつかまつりました。平に御勘弁を。
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両士は慇懃《いんぎん》に挨拶して、坐る。
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播磨 や、それがいわゆる鞘当《さやあ》て。いささかの意趣遺恨でもあろうものなら、その鞘当てからいかなる騒ぎになろうも知れぬところを、見事、平らに捌《さば》いた両人の手並み、ちかごろ鮮やか、鮮やか、ははははは。
両人 鞘当てとはどうも、ははははは、それがまた自らなる御座興となって、殿の御感を得るとは。なんなら、いま一度お当て下されい。
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