け、いや、第一に己れを欺けさ。なんにしても殿のお手で、あのお加世どのが税所のふところから取り上げられたのだから、こんな痛快なことはない。
吾孫子 いやどうも、何やかやと皆さまをお騒がせして、申訳ありませぬ。が、私は郁之進に気の毒で、あれの顔が見られん仕末で――。
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正面の庭の燈籠に、腰元が灯を入れてゆく。殿の出御近しと知って、三人はいずまいを直す。二つ折りの褥を捧げた侍女がはいって来て、上手に座を設ける。
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稲生播磨守 (廊下を近づく声)ああもう歌などどうでもよい。飽きた、飽きたぞ。
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はいって来て座につく。四十五、六の癇癖の強そうな大名。刀を持った子供小姓、つづいてお加世、侍女三、四、それぞれの席にい流れる。
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播磨 (平伏した三人へ)どうだ、税所の気が知れたかな。(と大欠伸をする)
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お加世はうつ向く。
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池田
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