墨絵にはなろうが、淡いさびしさだ。
そのさびしさはやがてはっきりした形をとって、追っても払っても若い守人の胸をむしばむ。
雲のようにむらがり起こる恋情を、守人はどうすることもできないのだ。
思う女《ひと》に思われる身は楽しいはず。現世にこれ以上の幸福はないかもしれない。
しかし、それは、思ってもいい女を思い、思われていい女に思われる場合に限る。思われてならない女に思われ、思ってならない女を思う守人の恋、そこに名刀帰雁でさえ断ち切れない哀愁と苦悩がある。思い思われていればそれでよいではないか、と考えてもみるが、こんなあきらめが何になろう。身と心を一筋に向けるのが恋の情感だ。
では、この胸の疾風《はやて》に乗って、女のもとに走り、自分を待ちわびているからだを抱いて、心ゆくまで泣こうか。女と二人で泣こうか――。
なんの五千石、君と寝よ。
恋はすべてである。
この水底に大小を沈めて、丸腰の気もすっぱり[#「すっぱり」に傍点]と、前掛けでも締めて世を渡ろうか。
川風が雨を吹き込む。
守人は身震いをして、悪夢からさめたように慨然と襟《えり》を正した。
天下の安危、静かなる
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