こと林のごときあいだにも機をねらって東西に奔馳《ほんち》しつつある同志の誓言、これらのことが守人の頭脳《あたま》にひらめくと同時に、たった今までの思慕の感傷を、われから蹴散らすような足取りで、かれは川に沿うて歩き出した。
 たとえ瞬間にしろ、あんな妄念にこころをゆだねるとは、俺は何たる見下げ果てた男であろう。ことに自分には、墓へはいる前に、必ず一度はこの帰雁に血を塗らなければならない仇敵《きゅうてき》があるではないか。先哲の書、父や恩師の教えを、俺はいったいどこへきいて来たのだ。
 こうして自らをしかっているうちにも、嵐《あらし》に似た恋ごころは守人の心身をかきむしる。
 この雨の夜を、あれは今ごろ、どこに何をしているだろう――。
 眼をあいたままうなされているのが今の守人だ。
 駒留橋《こまどめばし》から両国。
 お江戸名所九十六間の板張りが、細かい飛沫《しぶき》に白じらと光っている。
 渡れば広小路。
 番所を右に、風流柳橋の紅燈。
 春宵《しゅんしょう》一刻|価《あたい》千金、ここばかりは時を得《え》顔《がお》[#「顔《がお》」は底本では「顔《がほ》」]の絃歌《げんか》にさざめい
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