まするところ、御前、この者は江戸広しといえども、まず比類なき美人にござりましょうな」
「ほほう」
 猫侍と主人、長ながと足もとに横たわる女の黒い影を見下ろしていい合わしたように黙り込んだ。
 しかし、立ち去りはしない。だから女も、指一つ曲げるわけにはゆかないのだ。
 動いてはならぬ。動いてはならぬ――。
 ここは二階らしい。
 樹々《きぎ》の梢《こずえ》に風が吹くのが、同じ高さに聞こえる。
 夜もふけたよう――めいるような陰気さが、御府内とは思われない。
 ほほっ、ほっ。どこかで梟《ふくろう》がないている。
 お江戸ではないのかしら?
 そうだ、ここはきっと江戸ではないのだ。鎧櫃の中で自分が気を失っているあいだに、車がお江戸を出はずれて、こんなところへ来たのかもしれない。そういえば、何刻《なんどき》、あるいは幾日気絶していたものか。あたしにはてんで[#「てんで」に傍点]時の覚えというのがないのだから。
 そうだよ。ほんとにここは、もう富士の見えない国かもしれない。
 何の因果でこんな遠方へ来たんだろうねえ。
 雨! と女は、場合を忘れて、危うく顔を上げようとした。
 おっと!
 動いて
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