、なな、何としおった。つ、罪作りな奴め!」
 動いてはならぬ。
 声を出してはならぬ。こう念じて、いっしょうけんめいにじっとしていると、侍の足がすうっ[#「すうっ」に傍点]と上へ伸びて来て、腹から胸へかかった。女ははっとした。
 そこへ当たれば小判の音がする。
 南無三《なむさん》! と覚悟を決めたとき、足は、懐中《ふところ》の小判を越えて、はうように咽喉《のど》から顎《あご》へ――。
「しばらく、御前、しばらくお待ちを」しゃがんでいる侍が制した。
「ううむ。いや、これは美形、世にも珍しき美女にござりまする」
「な、な、何じゃ。美しいとな!」
 きき返した主人の驚きを無視して、侍が暗黒を透かして女の顔に瞳を凝らしているぐあい、感に打たれたといった態《てい》だ。
「く、暗がりで物の見えるそちの申することじゃから、こ、こりゃ間違いはなかろう」
「は。提灯なしに、手前は[#「手前は」は底本では「打前は」]夜道で針が拾えまする。十本が十本まで」
 くだらないことを自慢しているようだが、ほんととすれば猫みたいな侍、猫侍これだけはちょっと真似人《まねて》があるまい。
「その手前、こうつくづくと観じ
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