上がるどころか一分だって動かばこそ。はっ[#「はっ」に傍点]とした女、あらいやだ、冗談じゃないよこれは――と真剣にあわて出したとたん、またもや鎧櫃の真上に当たって、何やらひそひそ[#「ひそひそ」に傍点]ささやきかわす人声。
墓場のような重苦しいあたりのようすに、それは一脈のすごみを投げて、啾々乎《しゅうしゅうこ》たる鬼気を帯びている。
「ど、ど、どうしたのだ、こ、この、よ、鎧櫃は? だ、誰が持って来おった」
きいているのは岩鼻をかむ急湍《きゅうたん》のような恐ろしい吃《ども》りだ。女は聞き耳を立てた。
「は」他の一人が答えている。「ただいま神田の津賀閑山より届けて参りました品、具足でもはいっているとみえ、だいぶ重うございまする」
具足とはよく当てたね、と女はふっとおかしくなった。
「か、か、閑山から?」
さては閑山の相識《しりあい》らしい。
「は、閑山からと申して、下郎が引いて参りましたで、何はともあれ、ひとまず納め置きました」
何はともあれもないものだ。めったな奴に納められちゃあかなわないねえ、この先どうなるんだろうと鎧櫃の内部《なか》で、女が息を凝らしていると、そとでは二
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