かった。
「お! ごめんなさいよ」
「気をつけやがれ、ど盲《めくら》め!」
 声ではっ[#「はっ」に傍点]とすると、そこは職掌《しょうばい》、手がひとりでに自分の袂をつかんだ。
 と、小判の手ごたえがない!
「はてな、落としでも――」
 振り向くと、めくら縞《じま》長袢纒《ながばんてん》の頸《くび》に豆絞りを結んだ男が、とっとと彼方《むこう》へ駈けて行く。
「うぬ!」
 歯ぎしりをして、文次は跡を追った。が、逃げ足は早い。見る見るうちに男は遠ざかる。たまらなくなったいろは屋文次、見得《みえ》も外聞も捨てて大声をあげた。
「すりだ、巾着《きんちゃく》切りだ。つかまえてくれ!」
 往来がにわかにざわめき立って、両側の家からも人がとび出て来る。

   あけられたら百年目

 前の晩のことである。あれで五つごろだったろうか。
 女はいつのまにか気を失ったものとみえる――。
 こつん、と誰かが軽く外部《そと》から蹴りながら、
「何だ、鎧櫃ではないか」
 頭の上で声がするのが、ちょうど水の中を通って来るようにかすかに耳にはいると、女は、ぽうっと、たとえば水蓮の蕾が割れるように、おぼろげながらも意
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