、いい抜けはござんすまい」
「なんのことだ、それは」
 白い顎《あご》を襟《えり》へうずめて、侍は上眼使いに媚《こ》びを送る。いやな野郎だな、と思うと、文次はかあっ[#「かあっ」に傍点]となった。そして突然《いきなり》そこにあるからの鎧櫃を指さした。
「おうっ、お侍さん。これだ! ね、内部《なか》の物はどうしましたえ?」
 ずばり[#「ずばり」に傍点]といってのけた。
 ところが侍、雨蛙のような声で笑い出した。
「げげげげ、知らんぞ、そんな物」
「知らねえはずがござんすまい」文次は強くはね返した。
「この鎧櫃に五百両さ」
「くれるのか」
「ちっ、ふざけっこなしに願いますぜ。ねえ、あんたは悪気はなかろうが、こちとら[#「こちとら」に傍点]あ頼まれて鉦《かね》や太鼓で捜してるんだ。こうっ、返してやんなよ。え? いい功徳になるぜおい」
「無礼な口をきくな。貴様たちは何だ?」
「あっしは櫃の内容をいただきに参った者でごぜえます」
「この中に何がはいっていたというのだ?」
「それはあなたが御存じでがしょう。ともかく、この鎧櫃はひいて来た奴の間違えでお手へはいったんで――どうぞお返しを願います」

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