ではあり得ない。では養子だろうというに、そうでもない。棄児《すてご》かといえばこれまたしからず。じゃあ何だということになると、実は何でもないのである。
ただへらへら[#「へらへら」に傍点]平兵衛の相識《しりあい》の按摩《あんま》の夫婦がどこからかもらって来て育てていたのが、去年女房に死なれて盲目《めくら》ひとりで困っているのを、平兵衛が勝手に引き取ってきただけのことなのだから面白い。
のんきな話もあったもの。
が、今では主人の玄鶯院が新坊でなくては夜も日も明けないありさまで、夜中に咳《せき》の一つもしようものなら守人と平兵衛を起こしまわっててんてこまい[#「てんてこまい」に傍点]を演ずるという騒ぎ。
きさく[#「きさく」に傍点]な連中がそろっているからどこの誰の子かは知れないが、新太郎も温い人情に包まれて、幸福に健やかに五つの春を迎えている。
三人の男世帯へ夜が来た。
夕餉《ゆうげ》を済ますと、和漢洋の書籍が所狭く積んである奥の一間で、玄鶯院は新坊を寝かしにかかる。
「坊やのお乳母《うば》はどこへ行た、あの山越えて里へ行た。里のお土産《みや》に何もろた。でんでん[#「でんで
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