頬ずりをして、そのまま家へはいって行った。
 あとには篁守人が、ひとりつくねんと燃えしぶる枯れ葉をみつめて考えている。
 寝食を廃して国事に奔走する。なるほど雄々《おお》しい美しい名には違いないが、それがややともするとうつろな人間の、しかもほん[#「ほん」に傍点]の上っ面に過ぎないような気がしてならない。さればといってどうすればいいか。
 自分一個の道――こう押し詰めて来ると、そこに忽然《こつねん》と浮かび出るあの女《ひと》の幻。
 守人はそれを打ち消すように、たき火へ風を入れた。勢いを得た焔《ほのお》とともに、自責《せめ》と羞恥《はじらい》が紅潮《べに》となってかれの頬をいろどる。
 俺はこのごろ、全くどうかしているかもしれない。今まで考えなかったことを考えるようになったが、その機縁も俺にだけはわかっている。しかし、ここまで来たのだ。
 もう引っ返すことはできない――この若い浪人、何か事を進めているものとみえる。
「そうだ、やるところまではやろう」
 がしかし、ぬぐい切れないで残っているこのわびしさを何とする?
 このうつろな心をどこへやろう?
 江戸へ出て数年、陋巷《ろうこう》にう
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