ら一本抜いて、燃えているやつをはさんで来る。
「さ、これじゃ」
 と玄鶯院は受け取って、きっと守人の顔を見すえた。
「誰が火を放つ?」
「私が焼きましょう」
 守人の手で、薪《まき》が落ち葉の底へ差し込まれると、むせるような土の香とともに、白い煙がぶすぶすともつれのぼる。
「古い物は焼け滅びる。これでよいのじゃ。これがその最後の勤めなのじゃ。この灰の中から、新しい力が抬頭《たいとう》して来る。のう、やがてはその天下じゃわい」
「先生、すこしおことばに気を付けて――」
「大事ない。ここはわしの庭じゃ。ごみを焼こうと世話を焼こうと、何人《たれ》に気がねがいるものかい」
 相良玄鶯院、両手を腰に、高だかと哄笑をゆすり上げた。
「お爺ちゃま」
 という声がする。
 いつのまにか起きて来たものか、これが新太郎であろう。河童《かっぱ》頭にじんじん[#「じんじん」に傍点]はしょり、五つ六つの男の子が、てんてこてん、てんてこてん座敷の縁ではねている。
「お! あぶない!」
 それを見ると玄鶯院は、古いものも新しい物も忘れて走り寄った。
「おお、よちよち。起きたか、うん? 眼がさめたか」
 抱き上げざま
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