じゃ。冬を越した腐れ葉じゃ。もはや役を済ましたもの、あって益のない物、いや、益のないばかりならええが、あるがために新芽の邪魔をするものじゃ、どうじゃ、おわかりかな」
 たましいからたましいへ話しかけることばである。守人はうなずいた。
 にっこりして、玄鶯院は語をつなぐ。
「古い物がのさ[#「のさ」に傍点]ばっておっては、誰しも見苦しい。な、心中|快《こころよ》くない。ただ口に出していうといわぬの相違だけじゃ。そこでどうする? うん? なんとする?」
 ちょっと切って、ささやくような自問自答。
「焼くのじゃ」
 と一言。
 それから大声をあげて下男を呼んで、
「平兵衛《へいべえ》、これよ、平兵衛、火を持て」
「おうーい。今行くだあよ」
 たった一人の老僕へらへら[#「へらへら」に傍点]平兵衛、これは面白い癖のある男、酔うと膝小僧をたたいて陶然と歌い出すのだ。
「へらへらへったら、へらへらへ。あ、へらへらへったら、へらへらへ。あ、へらへらへったら――」
 どこまでいっても同じことだ。へらへらへの一点張り、際限がない。
 が、いまは白昼、素面《しらふ》で風呂をたいていたのが、釜《かま》の下か
前へ 次へ
全240ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング