から見ても茶くみ女としか踏めない客だし、それに何かいわくありげなようすだが、そんなことはどうでもいい、一両と聞いて駕籠屋は死に身だ。
刺青《ほりもの》の膚に滝《たき》なす汗を振りとばして、車坂《くるまざか》を山下《やました》へぶっつけ御成《おなり》街道から[#「街道から」は底本では「街頭から」]筋かえ御門へ抜けて八|辻《つじ》の原《はら》。
右手、柳原《やなぎはら》の土手にそうて、供ぞろい美々しくお大名の行列が練って来る。
挟箱《はさみばこ》、鳥毛の槍《やり》、武鑑を繰るまでもなく、丸鍔《まるつば》の定紋で青山因幡守様《あおやまいなばのかみさま》と知れる。
「したあに下に、下におろうっ――」
駕籠はひたひた[#「ひたひた」に傍点]とこれに押されて、連雀町《れんじゃくちょう》の横丁へ逃げこんだ。このとき、太田姫稲荷《おおたひめいなり》の上から淡路坂《あわじざか》をおりてくる大八車が二、三台つづいた。大荷を積んで牛にひかせているから、歩みがのろい。
一時、あたりは行列で混乱し、今来た道は荷車でとだえた。駕籠屋は駕籠を下ろして往来の人といっしょに、大通りを往《ゆ》く行列を見物してい
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