ぎ目や節穴をもれる陽が射しこんで、玄妙な明暗の縞《しま》を織り出していた。
 内部から桟をはずして、順ぐりに雨戸を繰ると、さながらどっ[#「どっ」に傍点]と音を立てて、この家にも、はじめて春が流れ込んだ。
 さすが饗庭邸と同じ建築《つくり》だけあって、いかさま、これなら数百石のお旗下が住んでも恥ずかしくない屋敷だ。欄間《らんま》といい、床の間、建て具、なかなかどうして金をくっている。
 何の間、かにの間とそれぞれ用途によって名があるのであろう。広やかな座敷がいくつもならんでしいん[#「しいん」に傍点]と墓場のよう、きのう人のいたけはいなぞはみじん[#「みじん」に傍点]もない。
 中廊下の取っつきの梯子段《はしごだん》の裾《すそ》が見える。
 襖《ふすま》のかげや小暗い隅へ気を配りながら、二人は階段を踏んで二階へ上がった。
 真の暗《やみ》。
 縁のほうへ手探り寄って、戸をあける。
 外光に照らし出された十畳の間、三方唐紙に閉ざされている。
 何気なく足を入れた。
 と、その真ん中に置いてある一つの物。
 鎧!
 黒革《くろかわ》張りに真鍮《しんちゅう》の鋲《びょう》を乱れ打ちに打った、
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