ゃこつ》長屋。
角に四つ手がおりて客を待っている。
「駕籠《かご》へ、駕籠へ。ええ旦那《だんな》、駕籠へ」
「ちょいと駕籠屋さん」女が駈け寄った。「神楽坂上《かぐらざかうえ》の御箪笥町《おたんすまち》までやっておくれ。あの、ほら、南蔵院《なんぞういん》さまの前だよ。長丁場で気《き》の毒《どく》だけれども南鐐《なんりょう》でいいかえ」
「二|朱《しゅ》か。可哀そうだな。一|分《ぶ》はずんでおくんなせえ。なあおい勘太《かんた》」
「そうよ、そうよ――しかし兄貴、いい女だなあ!」
「よけいなことをおいいでないよ。じゃ酒代《さかて》ぐるみ一分上げるから急いでおくれ」
「あいきた。話あ早えや。ささ乗んなせえ――よしか勘太、いくぜ」
つうい[#「つうい」に傍点]と駕籠の底が地面を離れると、た、た、たと二、三歩足をそろえておいて左足からだく[#「だく」に傍点]をくれる。あとは肩口のはずみ一つだ。
右へ折れて御門跡前《ごもんぜきまえ》。
ほうっ、ほっ。
えっさ、えっさ。
えっさっさ。
息杖《いきづえ》がおどる。掛け声は勇む。往来の人はうしろへ、うしろへと流れてゆく。
家なみの庇《ひさし
前へ
次へ
全240ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング