、行け」
「あい。ごめんやす」
で、親分と乾分《こぶん》は土手の柳の樹の下で、左右に別れたのだった。
初見参は妻恋坂の殿様
「おう、小僧さん、ちょっときくがな、饗庭《あいば》さまのお屋敷はこれかね?」
それらしい門の前で、文次が確かめようもなくて困っていると、ありがたいところへ酒屋の御用聞き、生意気にうろ[#「うろ」に傍点]覚えの端唄《はうた》かなんかを、黄色い声で鼻に歌わせて通りかかった。これへ文次がこう声をかけた。
「ああそうだよ。これが饗庭様のお屋敷だよ。だが、お前さん何の用だか知らないけれど、お金や商売のことなら、悪いことをいわないぜ、よしなよしな。ちっ、こんな払いのきたねえ家ったらありゃしねえ。あばよ、さば[#「さば」に傍点]よ、さんま[#「さんま」に傍点]の頭だ」
おしゃま[#「おしゃま」に傍点]な小僧、むだ口をたたいて行ってしまった。
ふうむ、よほど踏み倒すと見える。これはちと相手が手ごわいかな。ま、そんなことはどうでもいい。
が、いったいどうしたというのだ?
またしても安の野郎、明らかにどじ[#「どじ」に傍点]を踏みやがって、この邸を見張ってここで
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