」はママ]の帯に矢立てを差して、念入りに前だれまで掛けた親分の岡っ引きいろは屋文次、御用の御の字もにおわせずに、どこから見ても相当工面のいいお店者《たなもの》という風俗で、待遠しそうに土間の框《かまち》にきちん[#「きちん」に傍点]と腰をおろしている。
「安、御苦労だがな、ちっ[#「ちっ」に傍点]とわれのからだを借りてえことがあるんだ」
「へえ、何でごわす?」
「なあに、半ちく[#「ちく」に傍点]仕事よ。ま、つきあってくんねえ。途々《みちみち》話すとしよう」
自分の頼みだけ頼んでしまうと古手屋津賀閑山はさっさ[#「さっさ」に傍点]と先に帰ったと見えて、他には誰もいない。したがって安兵衛には、何だかいっこうにわからないが、その場の出幕以外に、絶えて通しの筋趣向というものを、終了《おち》までは誰人《たれ》にも明かしたことのないいつもの文次親分を知っているから、安も、
「あい、ようがすとも」
とがっくり[#「がっくり」に傍点]うなずくと同時に、さては死に花の探索に思わぬ眼鼻がついたのか、あるいはあの、満願寺屋《まんがんじや》水神《すいじん》騒ぎの一件か、それとも、ことによったらいろはがる
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