わからない。ただ、その筋の手へ渡されれば二度と見ることもあるまい浮世の光を、相手がしてくれるままに、ただこうやって楽しんでいるばかりだ。
 こうして何日かたった。
 文次は暇さえあると二階に守人を見舞い、守人たちを動かしている大義をたたいて、自分の心の去就を定めようとするもののようだ。守人もはじめのうちは、相手が幕府のいぬ[#「いぬ」に傍点]なので、密事のもれるのを恐れ、堅く口をつぐんでいたが、だんだんと文次の心のあるところがわかってみると、彼は進んで正道を説き、同志の計《はかりごと》の一端をさえ話して聞かせるのだった。
 もう、それを聞いて、どうかしようという文次ではない。
 するどころか、できることなら自分も車をまわす力に手を貸して押してみたい気さえしている。世のため、というと何だか少し縁遠いようだが、それもただちに自分のことなのだ。文次にはそれが、はっきりとわかって来た。
 そうなって来たある夜。
 おそく寝る下町もすっかり[#「すっかり」に傍点]大戸をおろして、人も草木も深沈と眠る真夜中。
 突如!
 浮世小路、いろは寿司の表を、割れんばかりにたたく黒い影。ちょうど下に寝ていた
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