を焼いたのは、お公卿《くげ》さまと学者と倒幕浪士との握手であった。
そのころ、毎夜|戌亥《いぬい》の空に一つの箒星《ほうきぼし》が現われて、最初は長さ三、四尺で光りも弱いが、夜のふけるにつれて大きくなって行く。
どこかに天下をねらう者が潜んでいる。
人々はこう噂して不安を増した。
そこで幕府は、大小目付三奉行の五手|掛《かか》りのお役かえを断行して、野火をあおるように一挙に安政の大獄に取りかかる。するとここに不思議なことには、井伊掃部頭《いいかもんのかみ》さまの信任厚い町奉行、池田|播磨守《はりまのかみ》の用人や、加役の組下、三|廻《めぐ》りの旦那方などの下を働く者のあいだに、実に奇妙な変死が絶えない。
刀で命を落とすのなら、当時のこと、珍しくはないが、これは、花が咲いて死ぬのだから、風流どころか薄気味が悪い。
江戸じゅうの手先が、猿眼をして探索にかかったが、毎日のようにお役向きが急死するばかりで、何が何やら、さっぱり眼鼻がつかないのだ。
花が咲いて死ぬとは?
それはこうだ。
出先からかえってくると、にわかに大熱が出て息を引き取る。遺骸《いがい》のどこかに、必ず紅《あ
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