」に傍点]と梯子段を踏み上がって来る足音。
がらり[#「がらり」に傍点]襖《ふすま》があくと、いろは屋文次だ。
「どうですい。お茶がはいりましたが」
自ら茶盆を持って来てすすめてくれる。守人は床の上へ起き上がって顔をしかめた。動くとまだ肩口の傷がいたむのだ。
「まだ傷が痛みますか」
「なに、大したこともござらぬ。重々のお心尽くしかたじけのうござる」
ぽつり[#「ぽつり」に傍点]と切るようにいって二人は無言、文次の茶をすする音がのどかに聞こえた。
――あの夜。
卑怯な遊佐銀二郎のために、肩へ斬り附けられた守人は、安兵衛に助けられて、銀二郎が影屋敷へはいって行った後、文次の心尽くしで、この日本橋浮世小路の文次の家、いろは寿司の二階へかつぎ込まれたのだった。
同時に心をこめた文次の介抱が始まった。近所の外科医が招かれて、金創《きんそう》の手当てをする。食事から寝起き、文次の親切は親身も及ばないほどだった。若くして巷《ちまた》に浪々する篁守人、人の情けに泣かされたのはこのときだった。
「彼奴《あいつ》あ死に花を使う帳本人なんだ。今までだって、お役人を始め公儀の肩を持つ方々、町方の岡
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