ともに、その中に連れの里好をも見失ってしまったお蔦は、誰とも話さず、どの袋とも語らず、黙々として立ち、歩き、座し、寝て、日を送っていた。
誰が誰やらわからぬこの井戸の底の世界は、世を隠れる者、身を秘《ひ》める人にとりては、まことに何より安息所、休息所といわなければならない。それかあらぬか、新たにはいって来る者はあっても、出て行くものはとんとないようである。地の底とは思われない広い部屋に、大勢の黒い塊《かたまり》が累々《るいるい》と、また蠢々《しゅんしゅん》と、動きまわり、かたまり合っているところ、実に浮世離れのしたながめであった。
何者の力、何者の仕事であろう。
こうして、人を集め、寝食を与えて、幾日でも、幾月でも、泊め置くとは?
何のため? 因縁《いわれ》のある人を隠まうため。もとよりそれに相違はなかろうが、ただそれだけか。それにしては物好き過ぎる。酔興過ぎる。といわなければならない。
一日おき、時としては二日おきぐらいに、この井戸の底で、不思議な巡視が行なわれるのだ。奥まった垂幕《たれまく》をはじいて、一同の黒い袋の代わりに、同じ作りの白い袋を着た、背の高い人物が現われる
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