何者かわかる機会があっても、わかろうとしてはいけないのが、この姿見井戸の定法だから、とみにはそばに近寄ろうとはせずに、これだけの秘密を知ってすでにここまではいって来た以上は、一味の者として、何の怪しむ必要はないと認めているもののごとく、その影が静かにいった。
「今、袋を持って来てやるから、待っておれ。何人だ? ああ二人だな」
 影はそのまま引っ込んで行って、まもなく、その方角から、どさりどさり[#「どさりどさり」に傍点]と、重い布地《きれじ》が飛んで来て、二人の顔やからだを打った。お蔦は蝙蝠《こうもり》かと思って、ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]としたが、里好は慣れたもの、
「これ、これ!」
 と喜びの声をもらして、そこらに落ち散った布を集めている。拾い上げてみると、黒い布を、ずんどう[#「ずんどう」に傍点]の袋に縫ったもので、頭から手足まですっかり包んで眼だけ出るようにできている。里好にいわれてそれを着けたお蔦は、何だか自分からこの世を離れて、全然別な世界へ来たような気がした。里好も、もう一塊の黒い袋と化している。二人は顧《かえり》み合って、袋の中でにっこり[#「にっこり」に傍点]した。
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