に、腐ったような水の香が、ぷん[#「ぷん」に傍点]と鼻をつく。井戸の幅が狭いので、お蔦は手足を突っ張るようにして、そろそろとおりて行った。里好の両手がお蔦を抱いて、そっとその浅い水の中に立たせる。
「さあ、これからだ」
 里好はこういって、ひときわ黒く苔のむしている眼の前の石を、ちょうど戸でもあけるように、力を入れて右へ引くと、――。
 と、どうだ!
 そこに人間一人楽に出はいりできる、黒い穴が口をあけたではないか。
 秘密の集会所。姿見の井戸への通路である。
 里好とお蔦は、手を取り合ってそこからはいり込んだ。真っ暗で何も見えはしないが、石室《いしむろ》のような狭い部屋であるらしいことと、足音のしないように、底に藁屑《わらくず》が厚く敷き詰めてあることだけはお蔦にもよくわかった。里好はお蔦を、ちょっと手で制するようにしておいて、それから闇黒《やみ》の奥をうかがって低い声で案内を求めた。
「お頼み申します――お頼み申します。駈け込みでございます」
 すると奥のほうから、藁を踏む足音《おと》がかすかに近づいて来て、闇黒のなかでも一段と濃い人影が、少し離れて立った。
 見ず聞かず――どこの
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