か井戸にしては浅そうだ。
 と、お蔦が思っていると、里好の声が耳近くで、
「裾《すそ》をぬらさねえように着物を引き上げるといいんだが、あんたはそうもゆくまい。まあ騒がずに、黙ってはいって来るがいい」
 こういって里好は、裾を引き上げて井戸をまたいだ。井桁《いげた》の内側にちょうど足場になるような具合に、ところどころ石が欠けて、引っかかりの穴ができている。それを伝わって、水面までおりた里好は、ためらうことなく、片足をざぶり[#「ざぶり」に傍点]と水の中へ突きおろした。ほんの踵《くるぶし》ぐらいまでの水である。
 水が濁っているので、昼間見てもちょっと深浅がわからないのだが、空の色や、井戸の上にのぞく木の梢《こずえ》を写して、どんよりとおどんでいるところ、上からのぞいた人は、まさかこんなに浅いとは気がつくまい。これでは井戸というよりも、盥《たらい》の底に、洗足《すすぎ》の水が捨て残っているようなもので、はいっても裾をぬらすに足らぬほどだ。
「おい」
 井戸の底から里好が呼ぶ。お蔦も思い切って里好をまねて、井戸の内側へすべり込んだ。ぬるぬる[#「ぬるぬる」に傍点]とした苔《こけ》の触感ととも
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