物をいわずに、いうときには太い声を出して、できるだけ活溌《かっぱつ》にふるまいなさい。なに、みんな脛《すね》に傷もつ連中ばかりだ。たいしたことはない」
 そのうちに坂を上りきると、立売坂の中腹に、饗庭家と同じ造りの影屋敷の門が見える。そこまで行くと、里好はまたお蔦を顧みて、
「ここだ」
 と、一言。
 どんどん中へはいって行く里好につづいて、お蔦も門をくぐりながら、この家なら一度来たことがある。実はここから逃げ出したところを追っかけられて、お前さんに助けられたのだと里好に話したかったが、その暇もなかったし、また彼女の中の用心深い何物かが、いい出そうとする彼女の口を、ことばにならない先に押えてしまった。
 門をはいると荒れ果てた小庭。
 それについて背戸のほうへまわると、そこに夜目にも白く冷たく石で囲った大きな井戸があるのがお蔦の眼にはいった。
 里好は再び振り返って、
「これだよ、驚いたかね」
 と、いったかと思うと、やにわに変なことを始めた。足もとを見まわして、小石を一つ拾うが早いか、そいつを、ぽんと井戸の中へはうり込んだのである。
 ぽちゃり[#「ぽちゃり」に傍点]という水音。何だ
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