お蔦が手枕舎里好に伴われて、三味線堀の家を出てから、黙って里好について行くと、里好はあれから、神田明神下へ出て、深夜の妻恋坂を上って行った。
 この上の家にはお蔦にとっていやな思い出がある。神田連雀町の閑山の家から、鎧櫃にはいって出て、飯たき久七の間違いで、届けられた饗庭の影屋敷、そこでの恐ろしい記憶は、まだお蔦の心にからんでいた。
 で、二、三軒先を行く里好にきいてみた。
「あの、どこへ行くんでございましょう? その姿見の井戸というのはいったいどこなんでしょうか?」
 が、里好はそれには答えず、星屑のこぼれるような空を仰いで、ただ坂を上る足を早めた。
 お蔦は軽い不安にとらわれざるを得なかったが、今となってはひくにもひけないし、この里好という人についてさえ行けばたいした心配はないような気がする。仮にまたあの家へ行くにしても、何か機械《からくり》のありそうな影屋敷の内部《なか》をのぞいて見ることも、何となくお蔦の好奇心をそそのかすのだった。
 里好が振り返った。
「誰が誰だかわからんのが姿見の井戸の底のみそ[#「みそ」に傍点]なんだから、あんたも女ということを気づかれんように、なるたけ
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