!」
「そうか――では、余儀ない。斬る」
「面白え! やってくれ。てへっ! 一つ注文があらあ。片身におろして、骨つきのところを中落ちにするんだ。どうでえ、田舎侍《いなかざむれえ》の板場じゃあこう意気にあゆくめえ。ざまあねえや」
 安兵衛、丸太を斜に構えて食いしんぼうなたんか[#「たんか」に傍点]を切っている。ほんとに斬りそうだったら逃げれあいい。足が早いし、この闇黒《やみ》の夜、ふっ[#「ふっ」に傍点]と消えうせるぐらい、安にとってはお茶の子さいさいだ。だからいやに鼻っぱしが強い。
 銀二郎が見ると、守人は路傍にうつぶせに、じっと動かない。
 この上は早くとどめを――とは思うが、御免安という変な奴が、眼の前にのっそり[#「のっそり」に傍点]といばっている。
 いささか持てあまし気味で、銀二郎は不思議そうに安をみつめた。が、果てしがない! と考えたか黙ったまま振りかぶった一刀を、安をめがけて打ちおろそうとした間一髪、にわかに、乱れた足音が坂を登ってきた。
 と知るや、急にあわて出した銀二郎は、守人も安もそのままにして、刀を下げたなりで、するする[#「するする」に傍点]とそこの影屋敷の門内
前へ 次へ
全240ページ中207ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング