の安さんと申す?」
「高田の馬場よ」
「それがどうした?」
「どうもしねえ。高田の馬場だから高田の馬場だてんだ」
「狂人《きちがい》だな――何だ、へんな物を持っておるな。植え木か」
「棒だ。泥棒につんぼ[#「つんぼ」に傍点]にしわんぼう、しわんぼうには柿の種とくらい。どうでえ! 驚いたろう?」
「たわけめ! そこのけ」
「どかねえよ。邪魔ならすっぱり斬ってくんねえ。あいにくまだ一度も死んだこたあねえんだ、てへっ! 切るなら斬りあがれ! 駄侍《だざむらい》め!」
「どうもあきれた奴だな。これ、町人、わしはな、十年この方親の仇敵《かたき》を求めて諸国を遍歴致し、今月今日というなき父の命日に、うれしやここでその仇敵にめぐり会ったのだ。あそこに倒れておるのがその仇敵だ。江戸の町人は侠気《おとこぎ》に富むと聞く。な、討たせてくれ。公儀へは追って届ける。さすればお前も、義に勇んだかどによってそこばくの下し物に預かるぞ。そこらは必ず俺が計ろう」
「何をいやんで! 親の仇敵たあ時代においでなすったね。うふっ、へそ[#「へそ」に傍点]茶もんだ。おいらああすこで始めから見聞きしていたんだぜ。ざまあ見やがれ
前へ
次へ
全240ページ中206ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング