中腹、ちょうど饗庭の影屋敷のすこし手前に当たって、左手《ゆんで》に草原を控えたちょっとした平地がある。遊佐銀二郎がその地点へ踏み入れたときだった。かれはうしろに当たって、低い太い声をはっきりと聞いた。
「遊佐氏、遊佐氏ではないか」
自分の名前というものは争われない。聞かぬふりをしようとしても、足のほうが正直だ。自然にその場へとまってしまった。勢い、振り向かざるを得ない。
「誰だ?」
「拙者だ、守人でござる」
「守人? ふうむ、あの篁か」
「さよう」と黒い影が近づいてくる。「いかにもその篁守人。お久しぶりでござる」
「や! これは篁、珍しいところで――どうじゃなその後は! 達者で重畳だな」
「――」
「おい、おぬし篁か。篁じゃな」
「遊佐、捜したぞ」
「何? わしをさがしたと? 要でもあるのか」
「おう、ある。大いにあるのだ」
「何だ、いえ」
「いうことではない。おぬしごとき犬に、もう何を申し聞けることはないのだ」
遊佐銀二郎、一歩下がって羽織の紐《ひも》に手をかけた。足《そく》のひらきがもう居合腰にはまっている。
「では、用というのは、何だ?」
「首だ!」
「首? この、遊佐銀二郎
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