「丹三よ、かかれ! 斬れ、斬れ! 斬っちめえ!」
 月は暗い。雲があるのだ。

   用というのは首がほしい

 その薄い光で見ると、ほろ酔いきげんの遊佐銀二郎、謡曲《うたい》か何か低声にうなりながら、妻恋坂から立売坂《たちうりざか》へさしかかってゆく。あとから守人が、これはかげを選んでつけているのだ。御免安兵衛は、この二つの人影へ、焼けつくような視線をすえて、陶山流でいう忍びの歩行稲妻踏み、すなわち、路の端から端へと横走りながら、しばしとまってまた斜めに切り進んで行く。
 安兵衛、尻をからげて、両手を膝に、やみを通して見極めをつけておいては、つつつと小走り、まるで鼬《いたち》だ。これではよもやみつかるまい。
「げっ! 影屋敷だぜこれあ。影屋敷へ御帰館と来やがらあ。それあいいが、あの二番目の侍だ。あいつがこう乙な声を出して、率爾《そつじ》ながらしばしお待ちを願う、お呼びとめありしはそれがしか――なんてことになると面白えんだがなあ。仇敵討《かたきう》ちだぜ、きっと」
 口のなかでぶつぶついっては、お手のものの稲妻踏みだ。のんきな野郎。
 月光が水のようだ。雲は切れたらしい。
 立売坂の
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