さるぐつわ》をかまされてころがっている。河岸《かし》へ鮪《まぐろ》が着いたようで、あんまりほめた景色《けしき》じゃない。
 文次は笑い出した。
「おやんなさったね、お侍さん」
「わかったか」と覆面の侍げらげらと咽喉《のど》を鳴らした。文次には記憶《おぼえ》のある、小癪《こしゃく》にさわる音声だ。
「どうだわかったか」
「わかりました」
 いいながら、文次、ちら[#「ちら」に傍点]と店の賊へ眼をやって、
「わかりましたよ、内藤さん、ずいぶんあばれますねえ」
「な、何だと? 内藤? 内藤とは何だ?」
「内藤とは内藤、内藤伊織だ。はっはっは、妻恋坂殿様の御用人、あんまり性《たち》のよくねえ赤鰯《あかいわし》さ。はっはっはは」
「ぷうっ! おのれ! 汝《なんじ》はここの手代だな」
「汝は、と来たね。だがね内藤の旦那、あっしあ手先だよ」
「なに、手先?」
「さよう、十手をいただいてるんだ。へっへっへ、いやな商売、どうせ畳の上じゃあ死にませんね」
 この文次のことばが、終わるかおわらないかに、たあっ――! と飛びすさった猫侍内藤伊織、にやり[#「にやり」に傍点]と笑って、店にいる抜刀へ声をかけた。
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