よくない古道具屋の店だ。湯灌場者は死人の手汚《てあか》で黒ずんでいるし、ほかの古物も、長らく人間の喜怒哀楽を見て来ているようで、そこらの品の一つ一つが一廉《ひとかど》の因縁を蔵しているらしく思われる。そとの風がさっ[#「さっ」に傍点]と流れこんで行燈の灯をあおり立てたとき、壁の自分の影が大きくゆらいだのを見て、文次は何がなしにどきり[#「どきり」に傍点]――胸を突かれる思いがした。
 店のむこうが茶の間、話し声はそこからもれるのだ。なんとなく、あたりをかきまわす物音もするようである。
 文次は店を見まわした。灯の届かない隅々に闇黒がわだかまっているばかり、ここには異変は認められない。
 ――呼んでみようか?
 と文次が声を出そうとしたとたん、
「ばかを申せ。あるやつが取られるのはあたりまえだ。それに、拙者らといえども私慾のための盗みではないぞ、国事だ。公用の資金だ。わかったか。わかったらこぼすな、こぼすな。おとなしくしておれば生命《いのち》まで所望だとはいわぬ」
 しゃがれた低声《こごえ》、ゆうゆうと風呂敷《ふろしき》包みでもしばりながらの御托《ごたく》らしい。
 やはり! そうだ!

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