に下男のへらへら[#「へらへら」に傍点]平兵衛と二人きりで天井を二重にしてそこへ砂を運んで苗をおろし、ひそかに研究の資に供していただけなのである。
 ところが、動こうとする世の中を、古い力で押し止めようとする幕府の仕打ちが玄鶯院の気に入らなかった。長らく自分たちを圧迫して来た徳川家である。ことに、掃部頭直弼が大老職についてからというものは、暴圧に暴圧を重ね、諸国の志士を眼の敵《かたき》にして、ろくに罪の有無もしらべずに酷に失した罰を加えるので、玄鶯院の身内に油然と復讐《ふくしゅう》の血が沸き起こった。そこへ現われたのが篁守人《たかむらもりと》である。
 守人の父水戸の篁大学とは同学のあいだだったので、大学が何者かの手にかかり非業の最期を遂げ、その子の守人が父の仇敵《きゅうてき》をねらって江戸へ出て来たときから、玄鶯院はわが子のように守人の世話をして来たのだが、こういう関係から玄鶯院もいつしか水藩の志士と往来するようになり、大老要撃の密計にも、一味にとって最大の智恵《ちえ》ぶくろとして参与することとなった。
 一方、江戸じゅうに、からだに花が咲いて死ぬ不思議な暗殺が行なわれ出したのもこの
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