めて空中を吹かれて歩くのである。それほどだから、茎《くき》をつまんで人のからだに近づけてやれば、必ずしも、根を押しつけなくても、自分から吸い着いてゆく。そうして一度人の皮膚に根をおろすが早いか、すぐに血を吸い上げて花が咲き出す。
 同時に、その根から猛毒を人体へ吐き出して、それを受けた人は、ただちに高熱を発し、夢をみるように、死んでしまうとのことで、玄鶯院はこの嗜人草の苗を数十本もらい受け、そのとき栽培法をもくわしくきいておいたのだった。
 まもなくのちに幕府の役人を殺しまわり、御用の者を当惑させた嗜人草はこうして玄鶯院の手を経て、本朝へ持ち込まれたのである。白い細い茎に、蒼白い葉の二、三枚と網のような青い根、それに、毒を帯びてくると紅い小さな蕾を持つ、ちょっと見たところ蓴菜《じゅんさい》のような植物であった。
 が、玄鶯院にしたところで、何もはじめから幕吏暗殺の目的をもってこの嗜人草を請い受けたわけではない。やむにやまれぬ研究慾を満たすため、いわば材料として分けてもらったのであった。
 だから江戸へ持ち帰ったのちも、危険だというのでそこらへ試植することをせず、わざわざ人眼をさけるため
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