どの害も及ぼさないが、それでも、南の国では名を聞いただけでも人を戦慄《せんりつ》させる植物であるとのことだった。
 ことにその苗は強く、何か月何年紙に包んでおいても死ぬということはない。そして、砂におろしたのちも、根が砂についてあるところまで成長するまでは無害だが、いったん成長しきって、といったところで元来小さな草だから五分くらいにしかならないのだが、蕾《つぼみ》を持ってくると[#「持ってくると」は底本では「持ってくるし」]、急に猛毒を含むようになる。
 それだけでは他の毒草のごとく、口中に入れたり触れたりしない限りまず心配はないわけだが、この嗜人草はその名のとおりに、毒を持つようになると人体に根をおろすことが大好きで、須原《スハラ》の砂漠《さばく》などでは、毒の蕾を持ったこの嗜人草が砂を離れ、群をなして風に乗って人血の香をさがして吹いてくるので、この毒草の風幕に包まれて、数百人から成る一隊商が全滅してしまうことも珍しくなかったというかぴたん[#「かぴたん」に傍点]の話だった。
 つまり、五分くらいの長さに伸びて蕾を持つようになれば、ちょっとした風にでも根が砂を離れて、ひとりで人体を求
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