数寄屋橋《すきやばし》御門から西紺屋《にしこんや》の河岸《かし》っ縁《ぷち》へ出た。
 もう四刻《よつ》をまわっている。
 暗いなかにどこか空あかりが漂っている美しい晩だ。
 思案に沈んでいた税所邦之助、背後の供が何かいうのも聞こえなかったが、やにわに横合いから提灯を突きつけられてびっくりした。
「お! な、何者だ?」
 急の光に眼がくらんで相手の顔は見えない。
 と、すっと提灯が下がった。
「人違いでござる。粗忽、ごめんを――」
 声に記憶《おぼえ》があった。とたんに、提灯の火が消えた。
「や!」
 邦之助の手が、思わず刀の柄にかかる。ところが男は、慇懃《いんぎん》に小腰をかがめているようだ。
 こやつ、見たことのある顔!
 ああ、そうだ。確か名を篁守人――本所の玄鶯院宅方来居へ乗り込んだとき、玄関に寝ていたあの若い浪人者――。
 怪しい! 寄って来たら真っ二つと! 邦之助が構えていると、守人は一歩下がって、
「失礼致しました」
 立ち去るかと見えて、すたすた歩いて来る。
 はっ[#「はっ」に傍点]として、さては、と邦之助が腰をひねったとき、守人は邦之助とすれすれにそのまま通り過ぎて
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