うとすると、足がしびれて袴の裾を踏んだ。
 小姓がくす[#「くす」に傍点]っと笑って下を向いた。
 邦之助の役宅は八丁堀屋根屋新道、帰路について、往来を歩きながらも、邦之助の頭は死に花の一件や烏羽玉組の跳躍[#「跳躍」はママ]、さては今いってきた大老様に対する水戸藩一派の策動などでいっぱいだった。考えれば考えるほど、このごろは人間がめだって不敵になったように思われる。
「しかし、これも世の中かな」
 と思う。
 が、得体の知れない草花を使う刺客やら、江戸中に出没する黒装束の強盗団、人もあろうに大老の首をねらう一味のことなどを、同心としての自分の立場からつぎからつぎと心に浮かべてゆくと、その一つにすらはっきりとした眼串《めぐし》が立っていないのが、役柄の手前はなはだふがいない気がする。穴あらばはいりたい。――ほとんどそんな悩みを覚えるのだった。
 何も自分ひとりの手落ちというわけではなし、また仮に邦之助が単身ふんばってみたところで天下の大勢をどうすることもできないのだが、そこが苦労性の生まれつきでしようがない。まるで青菜に塩の体《てい》で、考え込みながらふらふら[#「ふらふら」に傍点]と
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