のことはいかさまやりかねんやつじゃて」
「時に御前」
また邦之助の口が直弼の耳へ寄ると、しばらくして、
「うむそのことか」と聞いていた直さんが笑い出した。
「はっはっは、それなら先夜も志賀の金八が参って申しおったし、殿中においてもたびたびそれとなく忠告を受けおるが、直弼の眼中一身なしじゃ。かれら痩《やせ》浪士に何ができようぞ。あはははははは」
けれども、そのうちに邦之助がまたもや何事か耳へ吹き込むと、今度は、
「うむ」
といったきり――すると赤鬼といわれたその赫ら顔が一時に蒼ざめて大老掃部、畳をけるように突っ立った。
そしてどんどん[#「どんどん」に傍点]奥へはいってしまった。
邦之助が何をいったのかそれはわからないが、定めの半刻がたったので、世の格式を無視した会見はこれでおしまい。
済んでみるとあっけない。大老と一同心。もう一生涯に顔を見ることもかなうまい。年に一度会う七夕《たなばた》さまよりも情けないわけだ。
邦之助がぽかんとしていると、お小姓が菓子折と金一封を持って来て、御苦労さまと口上を述べている。
はっ[#「はっ」に傍点]と気がついた税所邦之助、いざ座を離れよ
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