たりを探りはじめる――。
 ちょうどその前面《まえ》に、大鏡が立て掛けてあるからたまらない。閑山老人、見てはならないところをことごとく見てしまった。そそくさと眼鏡を直して、鏡の中の白いまどらかな線に、からだじゅうの神経を吸い取られている閑山、いい図ではないが、本人は魂ここにあらずだ。
 やがてのことに女は、肌膚《はだ》に着けた絎紐《くけひも》をほどくと、燃えるような真紅の扱帯《しごき》が袋に縫ってあって、蛇《へび》が蛙《かえる》を呑《の》んだように真ん中がふくれている。
 ざく、ざく、ざく、と山吹《やまぶき》色の音。
 豪気な額《たか》だ――金座方でもなければ手にすることもなさそうな鋳《ふ》きたての小判で、ざっと五百両!
「こ、この女が五百金! はてな」
 と小首をひねると、色から欲へ、閑山ずん[#「ずん」に傍点]と鞍《くら》がえをした。
 いるだけ抜いてもとのとおりにあとをしまい、衣紋《えもん》をつくろい終わって女が呼ぶ。
「佐渡の土さ。落とすとちりん[#「ちりん」に傍点]となくやつだよ」
 閑山はふらふら[#「ふらふら」に傍点]として現われた。
 白痴《ばか》か茶番か、女は自分で今
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