しい、こんな抹香《まっこう》臭いあいづちを打ったりした。そして、思い出したように、
「あんたはどこのお人かな? 失礼だが、素人《しろうと》衆とは見えんようだが」
女はやにわに突っ立った。
「そうかしらねえ、ほほほほほ」
別人のようにいきいきしだして、ちら[#「ちら」に傍点]と戸外へ眼をやってから、
「さ、あたしもこうしちゃいられないよ。あの鎧櫃はいくらなのさ」
八両、と閑山が吹っ掛けると、女はぐっ[#「ぐっ」に傍点]と前へこごんで、すごいほど透んだ低声《こごえ》で、
「お爺つぁん、黙ってあたしのいうとおりにしておくれ。いいかい。鎧櫃をここへおろして、あたしを入れてふたをおし」
こいつあいよいよ桁《けた》がはずれているわい――逆らわぬに限ると閑山、鎧櫃を戸外《そと》から見えない土間の隅《すみ》へすえた。そうしておいて、試みに代金を請求してみると、今上げるからちょっと場をはずしてくれという女の註文《ちゅうもん》。
閑山は奥へはいって行った、と見せかけて、屏風《びょうぶ》のかげから女をうかがっている。
知るや知らずや、壁のほうを向いた女、手早く袷のまえをひろげて、帯の下、お腹のあ
前へ
次へ
全240ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング