》だてはいらぬお世話さ」
「ははは、おおきに――」
「けれども、お爺《とっ》つぁんだから話して上げよう」と女はちょっと真顔になって、「あたしゃもう何もかもいやになった。いっそあの中へはいってどこかへ行ってしまいたいのさ」
 閑山老は眼をぱちくり。
 ――これは、ことによるとき[#「き」に傍点]印《じる》しかな?
 だが、そうも見えないぞ――。
 とっさに思案がつかずにいると、女は妙にしんみりして来て、
「ねえお爺つぁん、世の中なんて変なものさね。こっちで死ぬほど思っている人は鼻汁《はな》もひっかけてくれないし、いやでいやでたまらない奴は振っても巻いてもついて来やあがるし、うっかりそれを義理人情のしがらみに取っ付かれるはめになりゃあしまいかと思うと、そいつの執心よりはあたしゃ、このこころがこわいのさ、どうしてくらすも一生なら、ねえお爺つぁん、山王のお猿さんじゃないけれど、なんにも見ず聞かずいわずに過ごせないものかねえ、なんかとならべたくもなろうじゃないか」
 何かしら迫って来る力に閑山はいつしかひき入れられていた。
「色界無色界というてな、到《いた》るに難《かた》しかの」
 湯灌場買いら
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