っぷりだ。
独身《ひとりみ》の女ぎらい、なんかと納まってみたところで、今こうして女の白い顔をながめて眼尻に皺を寄せているところ、おやじまんざらでもないらしい。
湯灌場物が主だが、場所柄お顧客《とくい》にはお屋敷が多いから、主人《あるじ》の好みも見せて、店にはかなり古雅なものがならべてある。刀、小道具、脇息《きょうそく》、仏壇、おのおのに風流顔だ。
正面、奥とのさかいに銀いぶし六枚折りの大屏風《おおびょうぶ》、前に花梨《かりん》の台、上に鎧櫃《よろいびつ》が飾ってある。黒革《くろかわ》張りに錠前《じょうまえ》角当ての金具が光って、定紋のあったとおぼしき皮の表衣《おもて》はけずってあるが、まず千石どころのお家重代のものであろう。女はこれへ眼をつけた。
「ねえ、あの鎧櫃を売っておくれよ」
こう甘えるように身をくねらせて、畳の上へ乗り出して来る。閑山は笑った。
「うん。売ってやろう。が、何にしなさる?」
当惑の色が女の顔に動いた。それはまたたくまに笑い消して、鈴をころがすように屈托《くったく》なげな高調子。
「ほほほほほほ、いいじゃあないの。売り物を買おうというのにそんな詮議《せんぎ
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