ってもらいたいくらいなんだから、いくらか置けばよろこんで下げてくれる。二両二分出した物が捨て売りにしても三十両、こういうばか儲けはざら[#「ざら」に傍点]にあったというから、こりゃお寺方の払い物を扱っちゃあ忘れられないわけだ。
したがって、何でもその道にはいればむずかしい約束があるとおり、湯灌場買いにも縄張り付きの株があって、誰でもかけ出して取っつけるという筋あいのものではない。また、湯灌場物のなかから掘りだしをつかむには、それ相応の鑑識《め》が要《い》って、じっさい、湯灌場でうまい飯が食って行ければ、古手屋仲間ではまず押しも押されもしない巧者とされていた。
江戸の東北、向島《むこうじま》浅草から谷中《やなか》根岸《ねぎし》へかけて寺が多い。その上どころの湯灌場買いを一手に引き受けて、ほっくりもうけているのが神田|連雀町《れんじゃくちょう》のお古屋津賀閑山。由緒《よし》ある者の果てであろうことは、刀剣類に眼が肥えているのでも知れるし、茶筌髪《ちゃせんがみ》のせいか、槍はさびても名はさびぬ、そういったような風格が閑山のどこかに漂っている。めっきり小金をため込んで、なかなか福々しい老爺
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