「お爺つぁんは?」
「知らいでか!」
「じゃあ、それでいいじゃないの」とほがらかに笑って女はいきなり閑山の背後を指さした。
「あれ売っておくれよ、あたしにさ」
お釈迦《しやか》さまでも気がつくまい
新仏《にいぼとけ》といっしょに檀家《だんか》から菩提寺《ぼだいじ》へ納めてくるいろいろの品物には、故人が生前|愛玩《あいがん》していたとか、理由《わけ》があって自家《うち》には置けないとか、とにかく、あまりありがたくない因縁ものがすくなくない。
ところで、これを受け取った寺方では、何もかもそう残らず保存しておいたのでは、早い話がたちまち置き場にも困ることになるから、古いところから順に売り払って、これがお寺の所得になり寒夜の般若湯《はんにゃとう》に化けたり獣肉鍋《ももんじゃなべ》に早変わりしたりする。そこはよくしたもので、各寺々にはそれぞれ湯灌場買いという屑屋《くずや》と古道具屋を兼ねたような者が出入りをして、こういう払い物を安価《やす》く引き取る。
商売往来にもない稼業だが、この湯灌場買いというものはたいそう利益のあった傍道《わきみち》で、寺のほうでは無代《ただ》でも持って行
前へ
次へ
全240ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング