、幕府の大老として今や飛ぶ鳥を落とす井伊掃部頭直弼だ。
大股《おおまた》に、といいたいが、小柄でせっかち[#「せっかち」に傍点]だからちょこちょこと出て来て、足で蒲団を直してちょこなんとすわった。
「よい、よい。往け、ゆけ。あっちへ、あっちへ、あっちへ往け」
いらいらして御近習《ごきんじゅう》にいっている。
脂肪肥《あぶらぶと》りのしたからだのうちに、四角なだだ[#「だだ」に傍点]っ広い顔が載っかって、細い眼がつり上がっている。あまりいい御面相ではない。
家来が引っ込んで行くと、
「面《おもて》を上げい」
というお声がかりだ。どことなくがさがさ[#「がさがさ」に傍点]して、構えていないだけに、邦之助なぞにも話しがしやすい。わりに気軽にことばが出て、すぐにこのころの江戸の民状へ話題が向いた。
が、貫目《かんめ》というものは争われない。会ったらこうもいおう、あれをああ述べてこっちの才に驚かしてやろう、なんかと考えて来たことはすっかりどこかへ消し飛んでしまって、邦之助、きかれた答えを歯から先へ押し出すだけで精一杯だ。
「死に花とか申したな、皮膚《はだ》に根をおろして人を殺《あや》
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