ことのないやつだな」
「御冗談でございましょう。お! 御冗談といえばもう一つその御婦人とやらでおなくなりなすったというのもあんまり破目《はめ》をはずした御冗談じゃありませんかね」
「何だと!」
「あの女は生きております」
「どこに、どこにいる?」
 丹三が思わず口を出した。
「ここから丑寅《うしとら》の方に立派に生きております」
「何をいやんでえ! うせ物じゃああるめえし」
「心配《しんぺえ》するねえっ」文次は急に巻き舌に変わった。「いどころは俺が知ってらあ」
「な何と申す?」
「知ってるから知ってるといったんだ。それがどうした?」
「おのれ、無礼なやつ」
「はっはっは、刀に手をかけてどうなさるお気だ。ねえ、物は思案ずく、出るところへ出てちいっ[#「ちいっ」に傍点]と困るのはお前さん方じゃござんせんか。白痴《こけ》が犬の糞《くそ》を踏みあしめえし、下手なしかめっ面あ当節|流行《はや》らねえぜ」
「うぬ、いわせておけば――」
「いくらでもいいます。女が生きてたら文句はあるめえ。見たけれあ明日お奉行所へ来なさるがいい。帰《けえ》れ、帰れ」
 いいながら、文次は、ずかりと胡坐《あぐら》を組ん
前へ 次へ
全240ページ中158ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング