んだがな、あんたは髪をもっと引っ詰めて、それから声に気をつけて、中へはいったら万事男のつもりでふるまいなさい」
 こういわれて、お蔦がさっきの里好のかえ衣装を思い出していると、その心を読んだらしく里好は、
「いや、あの袢纒は違う」
 と打ち消して、
「新網に瑞安寺《ずいあんじ》という寺があってな。江戸中の掏摸《すり》の根城になっている。わしはそこで姿を変えてかせいでいたのだ。江州《ごうしゅう》雲州などという、わしの頼みとあらば灯の中水の中へも飛び込もうというすごいのがそろっているが、毎夜本堂に故買《ずや》の市が立って、神田の閑山なんかが出張って来てうるさくて寝泊まりはできぬ」
「神田の閑山というのは、あの津賀――」
「さよう、津賀閑山――お相識《しりあい》かな?」
 とんだ相識、とお蔦が黙っていると、
「食えない爺だ」
 いかさま食えない爺である。
「瑞安寺では顔役で、両国のびっこ[#「びっこ」に傍点]捨《すて》、日本橋の伊勢とならんで鼎《かなえ》の足と立てられているこのわしだが、姿見井戸へ行ってはまるで嬰児《あかご》だて。えらい奴がおるでな。もっとも、顔や名はわからぬが――まま、保養
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